第三種再生医療(PRP療法)を始める前の準備:厚生局申請と開始前のチェックポイント
近年、整形外科での関節治療や、美容皮膚科・形成外科でのエイジングケア、さらには不妊治療(産婦人科)や歯科領域にいたるまで、PRP(多血小板血漿)療法の導入が広がっています。
PRP療法は「再生医療等の安全性の確保等に関する法律(再生医療等安全性確保法)」の規制対象であり、厚生局への適切な申請と受理がなければ、一例たりとも治療を行うことはできません。
本記事では、これからPRP療法を導入しようと考えているクリニックの院長や事務長向けに、厚生局への申請フローから、事前に準備すべき設備・運用体制までを分かりやすく解説します。
1.PRP療法導入の全体スケジュールと位置づけ
PRP療法は、再生医療等安全性確保法において「第3種再生医療等」に分類されます。幹細胞治療(第2種)に比べるとリスクが低く分類されていますが、それでも申請から受理までには最低でも2〜3ヶ月程の時間がかかります。
【導入までの全体フロー】
✅ 事前準備:PRPキット・遠心分離機の選定、院内平面図の確認
✅ 特定細胞加工物製造届出:厚生局へ提出(※院内で調製する場合)
✅ 認定再生医療等委員会の審査:提供計画書の審査・意見書の取得
✅ 厚生局への提供計画書の提出:電子システム「e-再生医療」での申請
✅ 受理・治療開始:受理番号の発行後、初めて患者への治療が可能

2.申請前に絶対決めておくべき「3つの院内準備」
厚生局や委員会への書類作成を始める前に、まずは以下の内容を決める必要があります。
① PRPキットと遠心分離機の選定(メーカーの選定)
PRPを抽出するためのキットや遠心分離機は多種多様です。
- 厚生労働省の承認(または医療機器承認)を得ているシステムか
- 目的とする疾患に対して、十分な血小板濃縮率や白血球(LR-PRP / LP-PRP)のコントロールが可能か
- 1キットあたりのコストと、想定される自由診療の価格設定(相場は1回3万〜30万円超と領域により幅広い)のバランスは取れているか これらを吟味し、導入するメーカーを選定する。
② 「院内調製」か「外部委託」かの決定
採血した血液をどこで遠心分離・加工するかによって、必要な手続きが変わります。
- 院内調製(多くのクリニックが選択):院内に「細胞培養加工施設(CPC)」としての区画を設けるため、事前に厚生局へ「特定細胞加工物製造届出書」を提出し、施設番号を取得する必要があります。
- 外部委託:外部の専門業者に加工を委託する場合は届出不要ですが、委託先との契約書や相手方の施設番号が必要です。
③ 院内設備のレイアウト確認(院内調製の場合)
院内でPRPを調製する場合、安全に加工を行うための環境(クリーンベンチや、それに準ずる清潔区画、専用の遠心分離機設置スペース)が必要です。
クリニックの平面図を見て、「採血場所」「調製場所(加工室)」「PRP治療の場所」の動線が適切に確保できるかを確認します。
3. 申請前に必ず確認すべき「医師・歯科医師の要件」
設備やキットが決まっても、PRP治療を行う医師、およびクリニックの「実施責任者」が法的な要件を満たしていなければ申請は受理されません。
申請書類(提供計画書)には、実施責任者および再生医療等を行う医師・歯科医師の「氏名」「所属」「役職」に加え、詳細な「略歴」の記載が義務付けられています。
ここで特に注意すべきなのが、提供する再生医療に関する「知識および経験」を客観的に証明できるかという点です。
具体的には、以下のような実績が略歴として求められます。
- 関連する講習会の受講歴 例えば、関連学会(日本再生医療学会など)が主催する、「提供しようとする再生医療等に係る講習会」の受講歴などが挙げられます。
- ⚠️「受講予定」は不可 厚生局の基準において、「受講歴がなく、今後受講予定である」という状態は、要件を満たしているとは言えません。
必ず、委員会に書類を提出する「前」に受講を完了し、受講修了証などを証明として提示できるようにしておく必要があります。
💡 導入時のポイント PRP療法を検討し始めたら、まずは直近で開催される対象学会の講習会スケジュールを確認し、医師の受講枠を確保することが、スケジュールを遅らせないための最優先事項となります。
4. 厚生局申請に向けた「2つの壁」の超え方
準備が整ったら、いよいよ本格的な書類申請に入ります。
ここが最も手間で、1申請あたり数百ページに及ぶ添付書類が必要になることも珍しくありません。
認定再生医療等委員会による審査
厚生局へ書類を出す前に、厚生労働省が認可した「認定再生医療等委員会」に再生医療等提供計画書を提出し、審査を受ける必要があります。
- 委員会の選定:自院が所属する常設の委員会がない場合、外部の医療機関や学会が運営する委員会に審査を依頼します。
委員会によって、審査費用(数万〜数十万円)や開催頻度(毎月、隔月など)が異なるため、スケジュールに合う場所を選びます。 - 審査内容:治療の科学的根拠、対象患者の選定基準、インフォームドコンセント(同意書・説明書)の内容、健康被害が発生した際の補償体制(医師賠償責任保険の加入状況等)が厳しくチェックされます。
- 審査期間:1〜2ヶ月程度(修正指示が出た場合はさらに伸びる可能性があります)。無事に通過すると「意見書」が発行されます。
厚生局への電子申請(e-再生医療)
委員会から「意見書」を受け取ったら、厚生労働省のオンラインシステム「e-再生医療」を通じて、管轄の地方厚生局へ「再生医療等提供計画書」を提出します。
- 添付書類の例:
- 認定再生医療等委員会の意見書・議事録の写し
- クリニックの登記事項証明書、開設届の写し
- 担当医師の経歴書、医師免許証の写し
- 院内の平面図(加工室、処置室の明記)
- 患者向けの説明書・同意書
- 認定再生医療等委員会の意見書・議事録の写し
- 受理までの期間:管轄の厚生局や時期によって異なりますが、不備がなければ数週間〜1ヶ月程度で「受理番号」が発行されます。
⚠️ 注意点 関東信越厚生局などは比較的スピーディ(数日〜2週間)ですが、地域によっては1ヶ月以上かかる場合もあります。オープンや治療開始の予定日から逆算して、かなり余裕を持ったスケジュールを組んでください。
5. 治療開始後に求められる「継続的な運用体制」
厚生局から受理番号が発行され、無事にPRP療法がスタートした後も、クリニックには法律に基づいた管理義務が課されます。
導入前の段階から、これらの運用ができる体制(主に看護師や事務局のフロー)を整えておきましょう。
- 定期報告の義務(年1回): 毎年、実施した症例数や副作用・不具合の有無をまとめ、厚生局および委員会へ「提供状況定期報告」を提出しなければなりません。
- 変更時の手続き: 使用するPRPキットを変更する場合や、担当医師が変更・追加になる場合は、事前に「変更届(軽微な変更)」または委員会の再審査を伴う「変更申請」が必要です。
- 疾病等発生時の報告体制: 万が一、治療後に重篤な感染症などの健康被害(疾病等)が発生した場合は、定められた期限内(事象により24時間以内〜15日以内など)に委員会および厚生局へ迅速に報告する義務があります。
まとめ:スムーズな導入にはプロのサポート活用も視野に
PRP療法の導入は、クリニックにとって「自由診療の柱を増やし、既存患者へより高い価値を提供する」非常に魅力的な選択肢です。
しかし、クリアすべき法的なハードル(特に200〜300ページにおよぶ書類作成や委員会との折衝)は高く、通常業務の傍らでドクターや受付スタッフだけで完結させようとすると、挫折したり開始が半年以上遅れたりするケースが多々あります。
確実かつ最短ルートでPRP療法をスタートさせるためには、信頼できる再生医療導入支援を行っている外部リソースを上手に活用することも、スマートなクリニック経営における重要な戦略と言えます。
厚生労働省のホームページからも詳細を確認することができます。https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/saisei_iryou/plan.html
